キスは、目にして

ザ・ビートルズの日本公演が行われた2ヶ月前、僕達、小学4年生の遠足があった。
その日、僕は大好きな女の子に、大胆にもプロポーズをした。
彼女は、目が大きいので「キョロ」僕は、痩せているので「ヒョロ」と呼ばれていた。
「僕、キョロのこと、大好き。だから僕と結婚して」
しかして、彼女の答えは？
「私もヒョロが大好きよ。でも二人ともまだ子供だから、大人になったら、また考えましょ」
そう言うと、キョロは僕の右のほっぺに、キスしてくれた。そして、彼女は5秒間だけ、目を閉じた。すごくうれしかったけど、僕に勇気があれば、僕も、キョロの左のほっぺに、キスしたかった。
と、思うや否や、凄まじい爆音と共に、辺りが真っ暗に。5秒後、明るくなった目の前の光景に、僕は愕然とした。
目の前のキョロは、顔全体が「目」しかなかった。僕の身体は硬直して、微動だにしない。
野太い声で、キョロが言った。
「キスは、目にして」