美しい庭

「あなたの進路について母さん言い過ぎたわ。でもね、若いうちは自分がどうなりたいか、わからないものなの。勝利(かつとし)には後悔して欲しくないのよ。」
「俺が血の繋がらない養子だから母さんの言ってることが、わからないんじゃないよ。」
勝利は笑いながら母親が学生の頃に描いた絵を、ヒラヒラと目の前にちらつかせる。お世辞にも上手いとは言えない絵だった。
「さては、庭に埋めてあった私のタイムカプセルを見つけたのね！でも今、公民館で子供たちに読む紙芝居の絵を描いてるでしょ。学校も行かずに、あとから勉強して夢を追うのは大変なのよ。結婚も遅くなって子供もできない。」
勝利が、タイムカプセルの中の手紙を読みあげる。
「なになに、私はファッションデザイナーになる。それから結婚して、子供を五人作る！」
なりたいものがわかってても、上手くいかなかった現実を突きつけられた母親は、無気力な息子に負けてしまうのだった。