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「この絵には猫がいるね」
デートで訪れた美術館で、彼はぽつりと呟いた。その絵には、たっぷりの木々に覆われた青い家が一軒、描かれていた。
「猫なんかいないよ」不思議そうに私が答えると、彼はハッとして口元を手で覆い、
「いや。いいんだ。ごめん」とうつむいた。
その出来事がきっかけではなかったが、その後、私と彼は別れた。秋の風が吹くように。
何年か経ったある日、新しく出会ったクリムト好きの友人から、画家が綴った本を見せてもらった。胸騒ぎがしてページをめくると、あった。あの時、彼と眺めた絵の事が。
――ああ、あの絵を描いていた時、ずっと茶色の猫がいましてね。絵に入れようか、かなり迷いましたが、結局やめました――
気づいたら、コールしていた。彼が出た。
「あの時、茶色の猫の事、言えなくてごめんなさい」私の嘘に、彼は笑って答えた。
「いいんだ。でも、あの時言って欲しかった」
デートで訪れた美術館で、彼はぽつりと呟いた。その絵には、たっぷりの木々に覆われた青い家が一軒、描かれていた。
「猫なんかいないよ」不思議そうに私が答えると、彼はハッとして口元を手で覆い、
「いや。いいんだ。ごめん」とうつむいた。
その出来事がきっかけではなかったが、その後、私と彼は別れた。秋の風が吹くように。
何年か経ったある日、新しく出会ったクリムト好きの友人から、画家が綴った本を見せてもらった。胸騒ぎがしてページをめくると、あった。あの時、彼と眺めた絵の事が。
――ああ、あの絵を描いていた時、ずっと茶色の猫がいましてね。絵に入れようか、かなり迷いましたが、結局やめました――
気づいたら、コールしていた。彼が出た。
「あの時、茶色の猫の事、言えなくてごめんなさい」私の嘘に、彼は笑って答えた。
「いいんだ。でも、あの時言って欲しかった」
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公開:18/08/19 15:20
更新:18/12/30 14:28
更新:18/12/30 14:28
北オーストリアの農家
クリムト
コンテスト
二森(ふたもり)ちると申します。
人生の節目に、二つ目の名前をつくりました。童話や小説などはこの名で執筆しています。
怪談やホラー系は「鬼頭(きとう)ちる」名義で活動しています。
どうぞよろしく。
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