両親のこと

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映画女優であった母は父のことを話さぬ人だった。
私が生まれてすぐに父は枯れてしまった。だから父の記憶はない。写真も仏壇も墓もない。
父の名はカナディアンゴールデンロッドといい、北アメリカにルーツがあるらしい。先祖は戦後日本にやってきて、セイタカアワダチソウと呼ばれた。
外来種だとか、繁殖力が迷惑だとか、世間から冷たい扱いを受けてきたから、母は私の未来を思って父のことを隠してきたのかもしれない。
その母が余命幾ばくもないと知った私は、父のことを教えてほしいと頼んだ。
「一目惚れだったの」
若い頃からスター女優だった母には、仕事ばかりで私生活というものがなかった。
スタジオの裏庭に咲く黄色い父を見つめる時間が唯一の楽しみだった。
想いあふれて、母は父の根を掘り起こし、ふたりは駆け落ちをした。
父は枯れた。私を残して、まもなく母も逝くだろう。
私は花でも人でもない。
たったふたりの、恋そのもの。
公開:18/08/19 15:12
更新:18/12/04 18:41

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