予約の後輩、水瀬くん(8)

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「バカだな水瀬。そんなの自分が相手の一番になりたいに決まってるじゃん」
二人で飲んだ帰り道の信号で、幼なじみの銅条が眉を寄せて言うのに、僕は言葉を詰まらせた。
「でも、先輩は横入りが嫌いだし。予約のこともあるのに、僕は先輩の迷惑になりたくないんだ」
あの飲み会の夜も、先輩と並んで話しているときは幸せで、いつもの自分でいられた。
予約をしているだけで、「今」は僕に許されているわけじゃない。勝手な気持ちは、押さえつける以外ないのだ。
信号が青に変わり、僕は足元から顔を上げる。
と、目線の先、突き当たる喫茶店の窓際に、一つの影が見えた。
「……先輩?」
窓越しには、ぼんやりと座ったままの先輩と、立ち去る男の姿が映る。
なんだか胸騒ぎがする。
これは僕に許されていることじゃない。けれど。
「ごめん銅条。僕、横入りしてくる……!」
僕が振り返って言うと、銅条は楽しげに笑って僕の背中を力強く叩いた。
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公開:18/08/20 00:54
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ゆた

高野ユタというものでもあります。
幻想あたたか系、シュール系を書くのが好きです。

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