羊が一匹

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半年前からまた悪化した母の病が、一週間で治った。眠れない程だったのに。
「パパのおかげよ」
母はそう言った。もうすっかり病人の面影はない。

一週間前、父はまた怪しい物を買ってきた。すぐに騙されたとわかった。だって物が無い。
「買ったのは権利なんだ」
優しい=人が良いというのなら、それは欠点だ。今まで何度も無駄遣いをしている。
よりによってこんな時に。

父は横になっている母に話しかけた。
「羊が一匹、羊が二匹…」
なんと母はすぐに眠りに落ち、穏やかな寝息が聞こえた。
父は毎晩それを繰り返した。

「パパが数えてくれた羊は、すごく広い牧場でのびのび育ってるの。もちろん牧草も有機栽培よ」
父はその羊を数える権利を買ったのだ。

少しだけ、優しいだけの父を見直した。

「その毛でパパとお揃いのセーターを編もうかな」
なぜか聞かされた私が照れながら、それはきっと夢のような着心地だろうと思った。
ファンタジー
公開:18/08/19 23:27

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