花のある男

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「お前には花がねえ」と言われ続けてきたこの俺が、「近頃、花が出てきた」と褒められるようになった。
種を明かすと、とある工場で作ってもらったシャツのお陰だ。
「こいつを着て庭の花畑に寝っ転がりナ」
軽く採寸すると、職人の爺さんは真っ白なシャツを俺に手渡した。
半信半疑のまま横になると、見る間に美しい花模様がシャツに浮き出した。あとは爺さんの言う通りにそのシャツを着て舞台へ立つと、あっという間に人気芸人となった。俺は見事な大輪の花を咲かせたのだ。

しかし、ある時を境に俺の人気に陰りが見え始めた。
どうやら花の効力が無くなったらしい。俺は無理をいって、同じシャツをもう一着作って貰おうとしたが⋯⋯今度はいくら待ってもシャツに花は浮き出してこなかった。
「ナ、こいつは一回こっきりの特別製って言ったろう」
悲痛な表情を浮かべる俺を尻目に、爺さんは呟くように言った。
「花はいつかは萎れるもんサ⋯⋯」
ファンタジー
公開:18/08/19 23:19
更新:18/09/17 15:59
北オーストリアの農家

渋谷獏( 東京 )

(੭∴ω∴)੭ 渋谷獏(しぶたに・ばく)と申します。 小説・漫画・写真・画集などを制作し、Amazonで電子書籍として販売しています。ショートショートマガジン『ベリショーズ』の編集とデザイン担当。
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