ゴースト・レディを一杯

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「あちらのお客様からです」
そうバーテンに言われ示された方を見ると、長い黒髪のアジア系美女が、こちらに流し目をよこして妖艶に笑んでいた。
私は贈られたグラスを手に、彼女の隣へ移ろうと腰を上げた。けれど彼女は笑みを称えたまま、見計らったかのようにするりと店から出ていってしまったのだった。
それからというもの、私は来る日も来る日も彼女の姿を探してバーへ通いつめた。
けれど彼女は、二度と私の前に現れることはなかった。

「こちら、ゴースト・レディでございます」
私は同じ店の同じ席に腰掛け、彼女から贈られたのと同じカクテルを傾ける。
「なあマスター、彼女は幽霊だったのかな」
自嘲気味に言う私に、マスターはちらとだけ視線を合わせた。
「彼女は、二度同じ方の前に現れないのです」
「どうして……」
「一度で、お客様の魂を取り終えてしまいますから」
マスターが真面目に言うのに、私はなるほどなと笑った。
その他
公開:18/08/19 22:35
スクー あちらのお客様から幽霊

ゆた

高野ユタというものでもあります。
幻想あたたか系、シュール系を書くのが好きです。

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