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時折、神様は天から地に下り、人々に紛れてこの世を楽しまれる。
その日、神はとある絵画展の一枚の絵の前で足を止めた。
北オーストリアの農家。
神はその細密な風景画をしばし眺めておられたが、やがてこう囁いた。
「光あれ」
すると、光も影もないその絵の左上から陽が差し込み、日向の花は明るく輝き、マルメロの木影は長く家まで伸びた。
次に神はこう告げた。
「言葉よあれ。歌よ満ちろ」
途端に農家の中から笑い声が聞こえ、鳥のさえずりが画面からこぼれだした。
最後に神は右手を上げ、板壁の右端の扉を指さした。
すると一面地を覆っていた草花がさあっと左右に退き、農家へと向かう一筋の道が生まれた。
神は満足そうに微笑むと絵の中へ飛び込み、その道を歩いて扉の中に入って行った。

もしあなたが「北オーストリアの農家」の絵に陰影を感じたら、笑い声が聞こえたら、その時は、絵の中に神様が遊びにいらしているのかもしれない。
ファンタジー
公開:18/08/17 20:57

鰆木コアミ( 東京 )

コーヒーと本屋さんが好きです。

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