旅の猫と小さな冒険

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吾は風の旅猫。風の向くまま気のむくまま。今日も見知らぬ街に来た。
ぐすん、ぐすんと声がした。人気の無い道の端、小さな人の子が泣いている。目に浮かぶ雫は今にも溢れんばかり。
「少年よ、強くあれ」すれ違いざま振り向いて、ひと声かけて歩き出す。するとペタペタ足音が付いて来る。止まれば止まり、進めば進む。溜息一つ。旅は道連れ世は情け。袖振り合うも他生の縁。そして始まるいつもと違ういつもの旅路。一人と一匹の物語。

蝶に尋ねる。「何か綺麗なものはないか?」『色とりどりの花が綺麗だわ』季節の花の林を抜ける。
雀に尋ねる。「何かわくわくするものはないか?」『小川で水浴びは気持ちがいいよ』石づてに川の流れを飛び越える。

振り向けば泣きそうだった子供はきらめく瞳で付いて来る。小さな手足は力強く道なき道を切り開く。
『ママ!』大きな声がした。奇妙な旅の終わりを告げる。吾は風の旅猫。偶にはこんな旅も悪くない。
ファンタジー
公開:18/08/16 19:40

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