舞の踊り子

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「踊り子ども、残らずこれへ いでませい」。「へーい」と返事をして、私たちは殿の御前に出る。

『トッチンチリツンチントンシャー
トチチリチンツンチントンシャー
聞いて嬉しや きゃらの香り』

太鼓と歌に合わせ、私たちは舞う。

きゃらは極上のお香のこと。

戦で落ち延びて、この地で再スタートした私達の殿はまた、世の争いに加わろうとしている。その折り、いい知らせが入ってきたという歌だ。

本当に頂点を目指すのが必要なのだろうか。ここで争いなく一生を終えるのは許されないのか。

『それはほんに、そうかいな?』

突如歌詞にない歌が聞こえ、きゃらが微かに香り、気がつくと私は見たこともない世界にいた。

私達より綺麗な服を着た踊り子達が同じ舞を舞い、変な服を着た老若男女がそれを観覧している。

ただ、歌詞には続きがあった。

戦いを選んだ私たちは滅び、この舞だけが残ったのだと歌われていた。
その他
公開:18/08/16 00:53
更新:18/08/17 11:05

綿津実

自然と暮らす。
題材は身近なものが多いです。

104.がおー

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