雨の日の偶然

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ざあああ。突然の大雨。洗濯物のことを思い出しながら、私はカフェから出られずにいる。天気予報のお姉さんに裏切られた気分だ、勝手に。
隣のテーブルでパソコンを開いていた女性が立ち上がり、私の横を通り過ぎてゆく。黒のトートバッグからレースの折り畳み傘を取り出して、颯爽と歩き去る。その小さな背中を見つめていても、私のもとに傘が降ってくるわけなかった。

「あの、よかったら」

振り返る。店主が本を差し出して立っている。帯には『雨の日に読みたい短編小説集』とあって、すこし笑ってしまった。傘を忘れて困っているなら傘を貸そう、だけが正解などと誰が決めたのか。この人はそういうものたちから自由なのだ。きっとほかにもいろんな雨の楽しみ方を知っているだろう。私はこの人の好きな世界を見てみたいと思った。

「ありがとうございます」

コーヒーのおかわりを注文する。
手の温度が上がったのはたぶん、気のせいじゃない。
その他
公開:18/08/16 22:42
更新:18/08/16 22:45
小説 ショートショート 400字物語 一話完結

yuna

400字のことばを紡ぎます。

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