赤いちゃんちゃんこ

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夜道にぼんやりと赤いモノが浮いていた。ゆらゆら、とこちらに迫ってくる。着ている者の姿は見えない。
「ちゃーん! ちゃーん!」
男の子か女の子か、判断のつかない甲高い子供の声をあげている。ふわりと私の横を通り抜けた時、手を引かれたような感覚と共に意識がプツリと途絶えた。

ふと気付くと、カウンターに腰掛けていた。
「お気付きかい?」
カウンターの向こうで赤いちゃんちゃんこを着た初老の男性が鍋を作っている。
「すまねぇな。まーた、うちのガキがお客さんを連れてきちまったみたいで。まぁ、安心しな。うちは普通のちゃんこ屋だから」
あたりを見まわす。確かにごく普通の店だ。鍋の良い香りも漂っている。ただ……。
カウンターの奥に、男の子か女の子か判断のつかない可愛らしい子供の遺影が置かれていた。

ちゃんこ鍋は絶妙の味であった。店を出て夜空を見上げる。
はためく赤いちゃんちゃんこが月明かりの中に、消えた。
ファンタジー
公開:18/08/15 23:55

壬生乃サル

まったり。

2022年…3本
2021年…12本
2020年…63本
2019年…219本
2018年…320本 (5/13~)

壬生乃サル(MiBU NO SARU)
Twitter(@saru_of_32)

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