色々

　何を描いているのですかと問われたので、風景を写実しているんですと答えたら、青年は怪訝な顔をして通りすぎてしまった。不思議に思ったので青年を呼び止め、なぜそんなに怪訝そうな顔をするのかと問うてみると、そんな生命力に溢れた木々や様々な色を放つ花、優しさで包まれた緑はここには無いと言った。それはそれは驚いたので、あなたの絵を描いてくださいとお願いすると、青年は真っ白いキャンパスに真っ白いクレヨンで色とは呼べない色を塗りつぶしていった。これは何かと問うと、見たまんまの風景だと言う。真正面のビルも隣のビルも後ろのビルもみんなこんなんだよと青年は教えてくれた。真っ白いキャンパスには色んな色をのせた方が楽しくないですかと言うとまた怪訝そうな顔をしてどこかへ行ってしまった。
　ちゅんちゅんと一羽、また一羽と鳥が集まってきたようだ。逃さないように真っ赤なクレヨンでキャンパスに色を重ねた。