翳りゆく色彩

今日は家族の出て行く日
家族の時間が終わる時
笑い声の消えた朝
家は、ただの箱になる

ノビタキの軽やかな歌声が
がらんどうの箱に響きわたる
うららかな春の風が
吹き抜け埃を吹き飛ばす

バカンス帰りの笑い声
夕食時の明るい会話
家はみんなを待っている
みんなの帰りを待っている

『戦争がなければ』
最後に聞いた声の音
空虚な箱に跳ね返る。
なければ、なければ……

みんなが、いなければ

苔むす青い屋根の家
静かに佇む柱が一つ。
ノビタキの卵が遺る屋根
いつも通りの朝の時間

もう形も覚えていない
坊やの顔も主人の声も
守るべきものはなんだっけ
なければだめなのなんだっけ

もうすぐ戦火がやってくる
青も緑も白も黄色も塗りつぶす
守るべきものはなんだっけ
なければいいのはなんだっけ

家はみんなを待っている
みんなの帰りを待っている
空虚な箱に跳ね返る
誰かの帰りを待っている