もしもマグロの大部分がトロだったら

8
43

博士はトロより赤身が好きだった。
ある日、博士は仮説を立て、それを証明するための薬を開発し、海へ投入した。薬はすぐに効能を発揮して、マグロの身体の大部分がトロになった。
人々は狂喜乱舞した。値段は一気に下がり、ある寿司屋は、大トロ、中トロ、イカの三貫セットで「トロイカ三昧」なんてメニューを出す始末だ。
もはやトロは誰でも手が出せる食材になった。その普遍性から巷では平凡な男性を「トロ男」と呼ぶようになり、その年の流行語大賞にもなった。
しかし次第に、人々は飽きていった。赤身が食べたくても今や高級食材。あぁ、赤身が食べたい。皆がそう嘆いた。
それを見て、博士はほくそ笑んだ。仮説は証明された。人々はトロの希少性に価値を見出していただけで、赤身の方が美味しいのだ。
博士はこれを論文にして発表し、賞を授与された。
無論、論文の内容ではなく、こんな研究をする者はいない、とその希少性を評価されて。
SF
公開:18/08/13 21:09

会沢昇太郎

ショートショートをロングロング愛しています。女性の髪はショートかセミロングが好きです。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容