首吊り風鈴

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「よかれと思ってやったんですが」
 砂丘に続く松林、海風がスッと抜ける一本道の始まりに、その風鈴屋はあった。
「あの枝ぶりが、よすぎるのです」
 風鈴屋は足を止め、一本の松を指差してため息をついた。
「この枝が招くように見えるのでしょう。ええ。以前は、一月に三人ほど」
 首吊りの松。新聞はそう書きたてた。
「そこで風鈴をね。まさか風鈴の横で首を吊りたいなんて思わんでしょう」
 風鈴屋が天を仰ぐ。
 風鈴を下げた後の最初の縊死者は、その風鈴を右足の親指へ括ってぶら下がっていた。その次も、その次も…
「新聞に風鈴のことは載ってないってのに、みんな、そろいもそろって右足の親指へね」
 以来、風鈴屋は風鈴をつるすのを止めた。
「だが、これにも風鈴が下がっているね。ほら。右足の親指の」
 と指差すと、風鈴屋は「ヘェ」と頭をかいた。
「こっちも商売だもんでね。売ってくれといわれりゃ、売るほかないんで」
その他
公開:18/08/14 19:39
更新:18/08/14 20:03

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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