フレーバー

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 出張のお土産に、私はフレーバーを一瓶分買ってきた。
「あなた、ありがとう。どんな風味なのか、とても楽しみだわ」
 妻は大喜びしていた。瓶には、紙切れほどの大きさのフレーバーが詰めてある。そのどれもが赤、白、水色と水晶のようにクリアな色であった。
「色ごとに風味が違うようだ。著名な画家の絵を元にイメージしたフレーバーらしい」
「素敵ね。さっそく、試しましょう」
 妻がカタログを眺めながらフレーバーを一つ口に含めた。わたしも一つ、口に含めた。私のは『北オーストリアの農家』をイメージしたフレーバーらしい。
 口から鼻先にかけて、肥えた土と生い茂る緑の匂いが広がる。のどかな農家で暮らす自分を想像し、ほどよい心地よさに満たされていく。
「当時にタイムスリップした気分ね。ずっと目を閉じていたいわ」
 私も妻と同感だ。人工物で満たされた『いまの地球』に、私たちの心の安らぐ場所などないのだから……。
SF
公開:18/08/12 18:26
更新:18/08/12 18:29

ミジカチャウダー( 地球のあのあたり )

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