折れた心の修理士

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我が家には世界一の修理士がいる。

折れた心を直す為に、自分の心を溶かして接着する修理士。
父は名の知られた職人で、修理件数でギネスに認定もされた。けれど近頃どうも物足りないらしい。
「最近の若いのはちょっと辛いとすぐに修理に来る。昔は文字通り砕けるまで我慢したもんだ」
こうなると、三浪した東大生から大怪我を負ったプロ野球選手まで修理の武勇伝の枚挙に暇が無い。
しかしいつも愚痴が過ぎて母の怒りを買う。
「そのお客さんのおかげで今こうして食べられてるんでしょうが!粗末にしたら昔みたいに貧乏になるよ!」
途端に先程の威勢はどこへやら。か細い声で「む、昔の話はするなよ」と俯いてしまう。
「まあ、そうやって誇り持って仕事するあんたに惚れたんだけどね。頼むわよ、大黒柱!」
たちまち父はご機嫌になり、我が家は幸せに包まれる。
一言二言で父の折れた心を治してしまう。母こそが世界一だと、私は思うのだ。
その他
公開:18/08/12 14:40

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