1日の終わりの境

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1日の終わりの境に住んでいる男は、たくさんの物語を見てきた。

海辺で並んで座るカップル
貝殻を拾う少女に
砂浜を駆け回る少年
家族と離れる漁師
陽を拝むおじいさん

皆それぞれ、自分の人生を生きていた。

男は10年前、海で入水自殺をした。日が落ちる前のこんな時間に。彼女が死んだのが余りに辛くて。

それからというもの、この1日の終わりの境から出ることはできなくなった。

ある日、いつものように海岸を見ていたら、気になる青年がいた。目が虚ろで海にどぶどぶ入っていった。ピンときた。

一瞬、そのまま溺れればいいと思った。1人でいるだけの10年は寂しすぎたから。

だけど、そうはしなかった。

男は精一杯、空を描いた。

もっと境目を。海と空の境は燃えるように赤く、上空は濃い紺青を。その間は白く、でも混沌とさせて。

青年は空を見上げてわあわあ泣いた。それ以上、海に入っていくことはなかった。
ファンタジー
公開:18/08/12 08:11
更新:18/08/18 22:23
この話での 1日の終わり = 水平線に日が落ちるとき

綿津実

自然と暮らす。
題材は身近なものが多いです。

110.泡顔

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