入国審査は額縁の前で

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「さしずめここは大使館といったところかい?」
気に入りの山高帽を床から直接生えた木に吊るした。
「少し違うわ。絵はそれぞれが独立した国。ここはただの中継点よ」
若草色の瞳が私を囚える。
「額縁から先は彼らの世界。どの国のどの法律も関係ないわ。
裁くべき法がないもの、とうべき罪が無いでしょう?」
「額縁は国境、君は入国審査官ってわけだ」
それに答えず群青色のワンピースを翻し、仰々しく頭を垂れた女が詠う。
「さて、彼らの世界に入りたいとおっしゃる奇特なお客様はどの絵をご所望かしら。ゴヤ?マネ?それともゴッホ?」
「おしいね。どれも素晴らしい世界だけど、僕が行きたいところはただ一つ。オーストリアにある美しい農家さ」
そこで初めて、彼女は生真面目な顔を綻ばせ笑った。

「ここがかの有名な『北オーストリアの農家』の入り口、君の言葉を借りるなら国境かしら。
入国審査は合格よ。ようこそ友人、我らの国へ」
ファンタジー
公開:18/08/13 08:48
更新:19/03/27 20:34

mono

思いつくまま、気の向くまま。
自分の頭の中から文字がこぼれ落ちてしまわないように、キーボードを叩いて整理整頓するのです。

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