冬が足りない

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気がつくと、旅人はその景色の中にいました。花が咲き、太陽が煌めき、木の葉は赤や黄に色づいて、錦のような美しさです。
目の前の小屋で絵を描いている人がいました。それは旅人が今見ている景色そのもの――春と夏と秋が一気に押し寄せたような世界と、そこに建つ青い小屋の絵でした。
「美しい所ですね。でもこれでは、冬が足りませんね」
旅人が話しかけると、
「…足りませんか」
呟いて振り向いた絵描きの顔は、白い骨と暗闇で出来ていました。次の瞬間、骸骨はがらがらと床に崩れ落ち、途端に外は吹雪き始め、辺りは白雪に覆われてしまいました。
何かしていないと凍えてしまいそうな寒さに、旅人は慌てて骸骨をどかし、筆を取りました。まっさらな白色に戻ってしまった絵に色を載せる毎に、震えが止まり、吹雪が収まり、冬が遠ざかるようでした。
旅人は描き続けました。

冬が去れば、きっとまた誰かがここにやって来てくれるでしょうから。
ホラー
公開:18/08/12 23:36
更新:18/08/12 23:39
名作絵画SSコンテスト クリムト 北オーストリアの農家

詩のぶ

小説、詩、短歌、俳句、コピーなど、読んだり書いたりするのが好きです。ショートショートはこれまであまり馴染みがなかったので、ここで色々試しながら勉強できたらと思っています。
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