ビル喰い草

8
38

ある都市が草花に占領された。
「ビル喰い草」と名付けられたその新種の植物は、金属やコンクリートに根を下ろし、全てを土に分解してしまうという。
どんなに強力な除草剤も効果はなく、刈り取ったり焼き払ったりさまざまな方法で進行を遅らせてみたものの、その異常な繁殖力の前になす術もなかった。
やがて草花の猛威は隣接する都市にも伝播し、立ち並ぶビル群に花を咲かせ次々と倒壊させていった。
このままでは人類が築いてきた文明社会は崩壊し、ほんの数年で中世の頃の暮らしに戻るのではないかと予想された。
一方、もともと不毛の大地に住む人々は、この「ビル喰い草」の到来を歓迎した。春には美しい花を咲かせ、秋には甘い果実をもたらしてくれたからだ。

ぼくは、この草花に囲まれた木造の植物研究所で、ぬるいビールを飲みながら呟いた。
「除草剤がやっと完成したけれど、自分で蒔いた種を刈り取るのはもう少しあとにしようかねぇ⋯⋯」
SF
公開:18/08/11 13:31
更新:18/09/17 16:24
北オーストリアの農家

渋谷獏( 東京 )

(੭∴ω∴)੭ 渋谷獏(しぶたに・ばく)と申します。 小説・漫画・写真・画集などを制作し、Amazonで電子書籍として販売しています。ショートショートマガジン『ベリショーズ』の編集とデザイン担当。
https://twitter.com/ShaTapirus
https://www.instagram.com/tapirus_sha/
http://tapirus-sha.com/

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容