繰り返す人

蒸し暑い夜のことだった。連日仕事が終わらず残業をしていた私は、ふぅとタメ息をついて窓の外を見た。
目の前のビルの屋上に、人がゆらゆらと立っていた。まさか飛び降りるのではあるまいな。ゾッとして立ち上がると、アッと思う間もなくその人は飛び降りた。
「あ、ああっ！」
思わず声を上げ、慌てて窓を開けて下を覗き見ると何もない。すると、またビルの屋上に人がゆらゆらと立ち、飛び降りた。呆気に取られていると、
「ああ、もうそんな時期か」
と上司が呟き隣に立って、
一緒に窓の下を見下ろした。
「あれはもうとっくに死んでるのだが気付いてない。毎年命日になると、ああやって死のうとやってくるのだが、死んだことに気付かないでずっと同じことを繰り返してるのだよ」
「あの、知っている方なのですか？」
「ああ、君の前任者だよ」
上司はにこりと笑い私の肩を叩くと、「お先に」と帰って行った。