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自分がまだ十にもなっていない頃のことだ。
近所に住んでいた同世代の子どもと一緒に森の中を探検していると、開けた場所に小さな民家を発見した。
ひっそりと佇むそれはどうやら廃屋らしく、住居者が利用していたであろうベンチや小物類が屋内外にそのまま放置されていた。
誰しもが好奇心旺盛で、人が住んでいないことを理解した一人が「ここを俺達の秘密基地にしようぜ!」と提案しても咎める者はいなかった。
親に隠し事をする背徳感、秘密の共有。それらがスパイスとなり、森の中の小さな小屋は子ども達の平凡な日々に刺激的な彩を添えた。
大人になった今でもこの小屋のベンチに座っていると、過去の情景を鮮明に思い出せるのだ。
「懐かしいな。なあ、皆ーー」
隣を振り返っても、誰もいない。
歳をとると孤独になるのは事実らしく、過去に縋りついているのは私だけのようだ。
草木が生い茂る森の狭間から、鳥の囀が嘲るように木霊した。
その他
公開:18/08/10 23:33
更新:18/08/19 22:16

あべかわ

思いついた時にぼやぼや書いてます

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