ある夏の日

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私がそれを見たのは、夏の暑い日のことだった。
その日はなんだかついてない日で、仕事も小さなミスを連発していた。
気分転換にお弁当を持って外に出たものの、空いているのは日向ばかり。木陰のベンチは見事に埋まっている。

…ついてない

照りつける太陽の下でため息をついた時、ふとこぶし程の大きさの毛玉が落ちているのに気がついた。
なんの変哲も無い毛玉。それがぬるい風に押されるように転がってくる。
私の視線の先で、毛玉はころ、ころ、と静かに少しずつ近づいて…そして私の足に触れそうになった瞬間ーー

私は毛玉から大きく飛び退いていた。
何故だかわからない。でも、触れられたくなかった。
毛玉はそのまま転がり続け、ベンチで寝ているサラリーマンの足下に消えた。

しばらくして、暑さに苛立つように起きたサラリーマンがごみ箱を蹴り倒して公園から出て行った。

あの毛玉が何だったのかは、やっぱり今もわからない。
その他
公開:18/08/10 21:41

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