ミラーボールを消さないで

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なんにもない。それがぼくの最初の記憶。「無」という漢字を見るとほっとする。死ぬのがこわいと叫ぶ人が不思議だった。ただ、もとに帰るだけだと思っているから。こういうのを、死生観って呼ぶらしい。理解できなかった。理解したいと思った。

おじいさん、おじいさん、どうして死ぬのがこわいのですか。ぼくはそうして尋ねて回った。いろいろな答えが返ってきた。そして気づいてしまった。そのどれもが「本当はあれをやりたかった」と「わからないからこわい」に収まってしまうということに。ぼくは震えた。いま生きている人間が死のためにどれだけの欲求を抑制し、わからないからこわいの時間を過ごしているんだろう。ありがとうございました、と礼を言うのが精一杯だった。

ぼくは宇宙人なのかもしれない。理解されなくても大丈夫、のおまじないを言い訳にする。家に帰ろう。ぼくらは別の惑星出身なのだと思えば、優しくなれる気がした。
その他
公開:18/08/10 20:28
更新:18/08/10 20:30
小説 ショートショート 400字物語 一話完結

yuna

400字のことばを紡ぎます。

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