農家の娘

マルクトの店先で、綺麗な女性が花を一輪選んでいた。
「お嬢さん、モデルにならないか？」
声をかけると、面食らった青い瞳が私を見る。
「画家なんだ」と付け足すと、少し安心した顔をした。
「いいえ。私、畑に出ないと」
「畑？」
「農家なんです」
少し照れくさそうに、けれど何よりも美しく、彼女は笑った。

彼女の住む家は、古ぼけたあばら屋だった。
家の周りには雑草が茂り、一見では空き家のようにすら見えた。
私は彼女の家がよく見える位置に腰を下ろし、絵筆を取った。
下書きはせずに、直接色を塗り込む。

朽ちた家屋は瞳のブルーに。
枝葉の落ちた木は黒髪の緑に。
雑草だらけの地面には綻ぶ笑顔の花々を。

私はキャンバスいっぱいに美しい彼女を塗り込んだ。絵の中で、彼女と風景がひとつになる。
描き終えた私が顔を上げると、辺りは絵の通りの風景に変わっていた。
窓には彼女の買った花が一輪、変わらず輝いていた。