花の顔

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 露店で見かけた複製画に魅かれて買って帰ってきた。花畑が描かれているから、花が好きな彼女も、きっと気にいってくれると思った。

 だが絵を見せると、彼女は露骨に目を背け、ハンカチで口元を抑えた。
「え? 気に、入らなかった?」と僕が訊ねると、彼女は蒼い顔をして、
「え。うん。ちょっと花の顔が…」と洗面所へ駆け込んでしまった。

「同じ種類の花だって、一輪一輪みんな違う顔をしているの。猫だって、金魚だって、同じ顔してるって言われたら嫌でしょ?」
 双子の妹がいる彼女の口癖だった。

 僕はそんな彼女の目に、この絵の庭を埋め尽くした花が、一体どんな地獄絵図に見えたのだろうか、と思った。そして、この絵を自分の部屋に掛け、うっとりと眺めている僕の顔は、彼女には、どんな風に見えているのだろうかと。
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公開:18/08/09 09:41

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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