旅立ち

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どうやら僕もここまでだ。
君は最後まで本当に尽くしてくれたね。
僕の人生は幸せな出会いに恵まれた。

そういえば、今は亡き黒の愛猫が旅だった日も、今日のように穏やかな風が吹いていたな。覚えているかい?
あの子の旅を手助けするような優しい風を。

あぁ、最後にひとつ、君に頼みがあるんだ。
僕が死んだら、どうかこの絵を棺に入れてほしい。
僕の家を描いたこの絵と、共に生きてきたようなものだからね。

おや、これは何だろうか。
ここには、シミは無かった筈だが。
そうか、迎えに来てくれたのか・・・。
随分と長い間、独りで寂しかったろう。
それじゃあ、行くとしようか。


「ごめんなさい。あなたのお気に入りの絵に手を加えてしまって。でもね。」
「ようやくこれで、この絵は完成したわ。そうでしょ?」

おばあさんは絵の中の黒いシミを優しく見つめた。
「行ってらっしゃい。」

庭先から猫の鳴き声が聴こえた。
その他
公開:18/08/10 15:26
更新:18/08/24 13:54
#名作絵画 #クリムト #北オーストリアの農家

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