蝉の骸

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 熱中症による死者の数は日々更新されていた。そんな夏でも、仕事には出かけなければならない。
 蝉の声は途切れなく続いた。僕は、蝉の大きさと、その声の大きさとを不等号で結んだ。
「蝉ってなんなんだ?」
 足元に、蝉の骸が散らばっていた。身体は千切れてカサカサに乾き、蟻にでも食われたのだろうか、ハラワタは見当たらなかった。
「もしかしたら…」
 照りつける太陽と、吹き付ける熱風のせいで朦朧としながら、僕は夏空に響き渡る蝉の音を、聴いた。
「これは、蝉の音ではない。夏の叫びだ。夏は蝉に食われ、蝉は夏に焼かれる。その断末魔の悲鳴だ」
 足元で仰向けになっていた蝉をつま先で小突くと、ジーッとうめいてバタバタと羽根を動かした。
「今、この蝉一匹分の夏が、消滅しようとしている」
 僕は、ひと夏の総量と、ひと夏分の蝉の骸の重さとを等号で結び、そのあとは蝉の音も、暑さも、まったく気にならなかった。
ファンタジー
公開:18/08/10 15:21

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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