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長いこと絵を描いてきたが、こんな経験は初めてだった。
きっかけは細かく砕いた骨を絵の具に混ぜたことだ。

絵画の中にはいくつかそういう作品があるのは聞いたことがあった。
使われる骨はだいたい、画家に近しい人が亡くなった時のもの。
作品の中に生き続けて欲しいという想いから生まれる絵は一体どんなものなのだろう。
興味はあっても忘れてしまっていた話だが、彼女の最期にふと思い出した。

何を描いているかわからないまま、筆だけが進んでいく不思議な感覚に呑まれてしばらく。
最後の一筆を置いて、長い息を吐く。
我にかえって全体を見れば、そこには穏やかで優しい色彩が広がっていた。
一面に咲く野花、風と木漏れ日、奥には浅い水底のような色をした小さな家。

同じ景色を知っている。
なのに、彼女の中の景色はこうも美しかったことは知らなかった。

絵の具に染まった手を伸ばす。
触れたカンバスの縁をそっと撫でた。
その他
公開:18/08/10 13:29
クリムト 北オーストリアの農家

天宵 遥

言葉遊びや少し不思議なお話が好きです。
SSGプチコン1「花」優秀賞入賞

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