「百合」の花

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 遠距離恋愛が寂しくて、僕は一枚の絵を買った。一目ぼれだった。彼女に話すと「見たい!」という。そこで急遽、週末デートが実現した。
 結果、絵は彼女のお気に召さなかった。
「ごめん。私この花、駄目だ」
「片付けておこうか?」
「ううん。ここはあなたの部屋なんだから」
 そして僕達は、絵の事なんて忘れてデートを楽しんだ。

 翌朝、彼女が朝食を用意しておいてくれた。昨日とは別人のようで、「案外、いい絵だね」などと言って笑った。
 彼女が洗い物をしている時、彼女の手帳が目についた。今日のページを開くと、人の顔らしきモノが貼り付けてあった。それは小さな花の絵だった。彼女が、壁の絵の花を一輪、破り取ったのだ。 下には「百合」と書かれていた。だが、それは絶対に百合ではなかった。
「もう、浮気しないでね」
 彼女の声がした。
 その時、僕は「百合」が花ではなく、僕の前の彼女の名前だったことに気付いた。
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公開:18/08/07 22:57
更新:18/08/07 23:11

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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