怪異と噂話

「噂って怖いわよ」
そんな風に切り出したのは、真っ赤な服を着込んだ口裂け女だった。
「私たちにはそれぞれ、弱点ってあるじゃない？」
その場にいる者たちは、揃って頷く。
「私の場合、ポマードとか。でも、ちょっと気になることがあって。私は豆腐が苦手だって噂」
「何かおかしいのか」
隣の鬼が聞く。
「私、豆腐、超好きなのよ。苦手なのは妹。だから、豆腐投げられてもありがとうって思う」
「好き嫌い分かれるんですね」
人魚が聞いた。
「そりゃそうよ」
「何人もいたんだな、口裂け女」
「一人で全国カバーできない」
ふと、人魚も口を開く。
「私も、ファンタジー色の強い噂が出来てて。浜辺に落ちてるものの中に、結晶化した人魚の涙が混じってる、とか」
「実際は？」
「鱗は落としたことあるけど、涙は水ですし」
「……噂はいつも尾ひれが付くってことね」

「そう言えば、人肉食べたら不老不死になれるって知ってる？」