花火シンドローム

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あ、花火。

どぉん、どぉんと鈍い音がして、思い出したのはお風呂の中だった。ぼうっとする頭に芹沢の顔が浮かぶ。一緒に行こうって約束したっけ。
今この瞬間まで自分がすっかり忘れていたことに気づき、私は驚いてしまう。あんなに泣いたのに。もう恋なんかできないくらい、絶望的にベッドから出られなかったのに。今ではもうすっかり大丈夫になってしまったというのだ。あまりの単純さに私は笑ってしまう。本気だった。自分でも自分についていけないくらいのスピード感をもっていた。

花火は見えない。私は鼻歌を歌う。どぉん、に負けてはいないなと思う。
もうすぐ夫が仕事から帰るだろう。花火にはまるで興味がないという風に、私たちは目もくれず晩酌するだろう。そうやってこれまでの夏をいくつも乗り越えてきたことを、どちらからも決して口に出したりはしないだろう。
私たちはどこまでも似た者同士だった。
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公開:18/08/08 21:25
更新:18/08/08 21:28
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