干される

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テレビ局勤めの友人と飲んでいると、あるタレントの名前が出た。そのタレントはテレビでしばらく見ていなかったが、最近また目にするようになった人物だった。
「あの人さ、じつはおれが助けたんだよ」
どういうことかと尋ねると、友人は言った。
「ほら、よく“干される”って聞くだろ? あれは比喩とかじゃなくてさ。あるとき局の倉庫で偶然見つけたんだ。あの人が物干し竿で干されてるとこを」
「ええっ?」
「触るとカカッカラに乾いてて。なんだか可哀そうになって、おれ、こっそり下ろして持ち帰ったんだ。で、とりあえず水で戻してみるかって。試しに風呂に入れてみたら、見事に戻ったってわけなんだよ」
「本当に…?」
「ああ。ただ、ちょっと申し訳ないこともして。ほら、今のあの人、昔よりふっくらしてるだろ? あれはおれのせいなんだ。戻すときに風呂に浸しすぎたのが原因で」
彼は言った。
「水を吸って膨らんじゃったみたいでさ」
その他
公開:18/08/08 13:22

田丸雅智( 東京 )

1987年、愛媛県生まれ。東京大学工学部、同大学院工学系研究科卒。2011年、『物語のルミナリエ』に「桜」が掲載され作家デビュー。12年、樹立社ショートショートコンテストで「海酒」が最優秀賞受賞。「海酒」は、ピース・又吉直樹氏主演により短編映画化され、カンヌ国際映画祭などで上映された。15年からは自らが発起人となり立ちあがった「ショートショート大賞」において審査員長を務め、また、全国各地でショートショートの書き方講座を開催するなど、新世代ショートショートの旗手として幅広く活動している。著書に代表作『海色の壜』など多数。

◆公式サイト:http://masatomotamaru.com/

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