ハーモニカ

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 そいつとは中学校卒業までずっと同じクラスで、家もすぐ近所だった。まぁ、親友といって良かったんだけど、高校は別々になって、僕の方が偏差値の高い高校だったから、すっかり会わなくなって20年が経っていた。
 パーティーには、そいつも来ていたんだけど「久しぶり」と言っただけで離れて、僕は一人でソファーに座っていた。
 そいつは家族連れだった。きれいな奥さんと、来年小学校に上がるという、かわいい女の子だ。昔の知り合いとか、隣近所の連中とかで、ワイワイやっているんだけど、話題はそいつの子供や奥さんの事ばかりのようだった。
 僕はおもしろくなかった。そいつは一戸建てまで建てていたんだ。
 だから僕はハーモニカを吹いた。幼稚園のころ、みんなが誉めてくれた曲を、パーティーの騒ぎの中、誰にも聞かせたくはなく、かといって、誰かに聞いてもらいたいような気分で、一生懸命に、ハーモニカを吹き続けた。
青春
公開:18/08/06 20:11
更新:18/09/12 22:28

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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