メニューのない喫茶店

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刺すような陽射しから逃れるように喫茶店に入った。鈴の音に気持ちが涼む。
「いらっしゃいませ」
紳士風のマスターが迎えてくれた。他に客はいない。カウンターに座った途端、
「ハーブティーです」
「あ、アイスコーヒーを」
「当店にメニューはありません。お客様に最適な飲み物をお出しします」
その笑顔には有無を言わさない力がある。
ハズレの店だな、さっさと飲んで帰ろうと急いで口に含むと、舌が痺れた。
「疲れてらしたので疲労回復効果の物をお出ししました。痺れるのは疲労が蓄積しているからです」
グラスに敷いていたコースターを指差す。
「北オーストリアの農家という絵です。飲み物にはここに描かれている植物を使っています。これは運命なのでしょうね」
そういえば体がすっきりした気がする。
ふわふわした気持ちで店を出る。
店名を確認しようと振り返ると、そこはただの空き地だった。
口の中にはまだ余韻が残っている。
その他
公開:18/08/05 23:35

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