絵葉書の少女

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小学校最後の夏休み。町内会主催のお祭りで、黙って僕に食べかけのりんご飴を押し付け、走って行った女の子。振り返って一言、「ばーか!」って言われたっけ。おてんばなやつだった。

「奥野ちとせさんは、お家のご都合でオーストリアへ引っ越しました。」夏休み明け最初のクラスルームで、先生はそう言った。クラス中が騒がしくなる中で、僕の胸には形容しがたい感情が渦巻いていた。
そんな事、交換日記には書いてなかったじゃないか・・・。

卒業後、僕は地元の中学校に進学して部活に明け暮れていた。目まぐるしい日々で次第に奥野の影が薄くなってゆく中、たった一度だけ、絵葉書が届いたんだ。


「初めてのボーイフレンドが出来ました!ちとせより」
・・なんだよ、それ。

その葉書の絵の名前を知ったのは、それから随分時間が経った後だった。

奥野ちとせは今、ウィーンから世界中を飛び回る日本人バイオリニストとして活躍している。
青春
公開:18/08/05 01:48
更新:18/08/05 09:50

タネダミツアキ( 東京都 )

28歳。
マイペースに作ります。

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