本当のところ

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人工的に冷やされた部屋の中で、静かにペンを走らせる。
図書館の中の人々は、それぞれの空間に干渉しない程の距離をあけて、黙々と作業をしている。
騒がしい蝉の声は、建物の中に入ると同時に遠ざかって、まるで全く別の世界にいるようだ。
ぎぎぃ。
近くで椅子を引く音が聞こえた。
視線を向ける。
「あれ、奇遇」
目が合った彼女は、さほど驚いた様子もなく、学校の課題?と聞いてきた。
「あ、うん。そうだよ」
僕が答え終わる頃には彼女は着席していた。
「いい?ここ座って」
「いや、もう座ってるじゃん」
僕が含み笑いをしながら答えると、確かに、と笑った。


蝉の声が一瞬で切り離される。
冷房が効いた部屋に入ると、決まって帰りに味わう夏の蒸し暑さの事を思う。
図書館の一画に、彼を見つける。

「あれ、奇遇」
ぎこちなくならなかったかな。
声の抑揚とは裏腹に、心臓は飛び出しそうになる。
「学校の課題?」
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公開:18/08/04 23:35
更新:18/08/06 21:04
図書館

たけなが


たくさん物語が作れるよう、精進します。
よろしくお願いします!

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