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北オーストリアにあるこの家を見張り続けて、私で18代目になる。
ここにはかつて縄文人と交流していた宇宙からの使者が今も暮らしている。
仙台藩の密命で遣欧使節団から別れた初代は、ここで使者との交流と警備監視を行なった。
晩年この地で宇宙を描いた画家のクリムトは、私の祖父をとても可愛がり、日本のことや縄文文化を語りあったという。
私が父から任務を引き継いで四半世紀。使者の姿を見たことは一度もない。
妻からはいつまでこんな生活を続けるのかと言われている。
息子に後を継ぐべきかどうか。
遺言で、こちらから使者に接触することは禁じられているが、このままで良いとは思えない。

私は扉の前に立った。
ただならぬ気配が私に扉を開けさせた。
そこにある宇宙は美しく荘厳で、私の呼吸を奪ってゆく。
父や祖父は知っていたのだろうか。

キスをしたままミイラになったクリムトと恋人エミーリエを前に、私は重力を忘れた。
公開:18/08/05 21:09

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