セミショートの女

「いらっしゃいませ。今日はどうなさいますか？」
「カットしてください」
「どの位お切りしますか」
「セミショートでお願いします」
そう言って、客は大量のセミの抜け殻を取り出した。「これで、セミショートで」
「あの、お客様、セミショートというのは髪の長さでよろしいでしょうか？」
「セミショートで」
それ以外に言わない客に困惑しながら、セミの抜け殻を眺める。これを使うのか？使うんだろうなぁ。
私は思い切ってベリーショートにカットした。客の表情からは、正解なのかどうか読み取れない。
次に、その毛先にセミの抜け殻を絡めて行く。一つ目の抜け殻を絡めたとき、客がニコっと笑った。これは、いけるかもしれない。

「これでいかがでしょうか」
全て絡め終わった。スタイルチェックをする客の顔が、明るく輝いている。
「イメージ通りだわ。ありがとう」
そう言うと、抜け殻が取れないようにそーっとそーっと歩いて行った。