蟲の葬列

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「ねえ、ママ!みて!アリさんがいっぱいいるよ!」
夏の陽射しに照らされ、鉄板と化したアスファルトを息子が指差す。小さな指の先には蟻の集団が仰向けにひっくり返っている蝉を囲んでいた。
「アリさんたちはセミさんのまわりでなにをしているの?」
食物連鎖のしの字も知らない小さな息子に世の残酷さを教えるには少しばかり早すぎる気もするし、かと言って下手に答えないと、その後子供特有のねぇ、なんで?の攻撃が降ってきてしまう。それを避けたい一心で私は咄嗟に息子へ嘘をついた。
「アリさん達はセミさんのお葬式にきているのよ」
「おそうしき?」
「そう。セミさんが死んじゃったから、悲しいアリさんたちはセミさんにお別れを言いにやってきたのよ」
「そうなんだ...」
息子は蝉の亡骸の前で目を瞑り手を合わせた。
息子の意図を組むように蟻の群れは蝉の亡骸を運んでいく。
葬列は土が香る叢へと入ると、やがて見えなくなった。
公開:18/08/03 23:12

あべかわ

思いついた時にぼやぼや書いてます

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