絶妙なズレ具合のカツラ

森の家に、そのじいさんは住んでいた。何が俺の興味を惹いたって、じいさんは明らかにカツラと分かるカツラを被っていたからだ。

しかも、カツラは必ず少しズレている。今日少し斜めになっているかと思えば、翌日はもみあげの左右が合ってない。毎日違うそのズレ具合がなんとも絶妙で、カツラを見るためだけにじいさんに会いに行くこともあった。うん、今日もいいズレ具合。

何度か挨拶をしていると仲良くなって、家に招かれた。玄関のドアが閉まったところで、突然じいさんが「ところで、このカツラいいだろ？」と言った。ん？ 「ちょっとズラしておくだけで、お前みたいな奴が時々やってくるんだよ！」

呆気に取られていると、じいさんは、両手でカツラをぱかっと持ち上げた。ハゲ頭を想像していた場所は、暗闇のような穴がぽっかり空いている。ぐおおお、と凄まじい音を立てて周りの空気を吸い込んでいる。ああこれは、じいさんの狩りだったんだ。