孤独の景色

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その場所をずっと探していた。探していた時には見つからなかったのに、来るべき時にそれはスッと当たり前のように現れた。
そこにはないものがあった。一年中枯れない色とりどりの花々や遮られることのない光や汚れることのない空気や、気付かないぐらい透明な水や青青と繁り続ける木々。
そこにはあるべきものがあった。孤独に佇む家。人の生活している気配はなく、ドアを開けると、私は家の中で体を横たえた。
時折鳥のような声や虫のような声がした。
愛するものはいない、私を気遣うものもいない。声をかけたいものも、声をかけるものもいない。
花も木々も私を見ない。彼らはただそこに咲き、ただそこにいた。
私を見守るものは何もなかったので、私は本当の一人になり、やっと安心してゆっくりと目を閉じてその時を迎えた。

世界は一瞬、震えるような小さな音を立てた。その景色は何も変わらなかった。
その他
公開:18/08/02 11:44

むう( 地獄 )

人間界で書いたり読んだりしてる骸骨。白むうと黒むうがいます。読書、音楽、舞台、昆虫が好き。松尾スズキと大人計画を愛する。ショートショートマガジン『ベリショーズ 』編集。そるとばたあ@ことば遊びのマネージャー。

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