グスタフ・クリムトの選択

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「その農家は、本当は深緑色の家で暮らしていたかもしれない。」
若い画商はそう言うと、コーヒーカップを持ったまま喫茶店の店内を見渡した。
僕は妻だった女性からの手紙と、そこに添えられていた「北オーストラリアの農家」の写真を交互に眺めた。
「ここの客だって本当はどんな人か誰にもわからない。そこで大事になってくるのは〈あなた〉が何を真実とするかだ。グスタフ・クリムトがその家をその家として描いたように。」

僕は手紙に書かれたクエスチョンマークを虚しくなるほど見つめた。
「あなたは私があれほど猫を飼いたがっていた理由がわかりますか?」
僕はそこにどのような真実を見出だすべきなのだろうか。

画商はコーヒーを飲み干すと、静かに席を立ち喫茶店を出ていった。残された僕は青い外壁を見つめ、喫茶店の客を見つめ、手紙を見つめた。
そこには可能性しかなかった。
僕はこれから一人で真実を選び続けられるだろうか?
その他
公開:18/08/02 10:41
更新:18/08/02 11:49

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