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朝、女が暗がりに正座をしていた。いつものあやかしの類であろうと捨て置くと、じりじりと寄ってきて、布団に膝が触れるほどの距離となった。古風な髷を結って、和装の喪服で俯くその顔は当然明瞭ではなく、ただ額と鼻筋だけがぼうと光っている。
ただ座っているのみなら無害である。私は再び目を閉じた。その途端に、布団が堪えようもないほど冷たくなった。
エイとばかりに起き上がる。女は跡形も無い。
つまらない。と思うまもなく背後から花の香りが漂ってきた。
振り向くと、女は枕の上に三つ指をついていた。
「もう、十分でございます」
一陣の風が、身体を吹き抜けていった心持がした。
「それでは、留守を頼んだよ」
男は寝惚けたようにそう言うと、スーと滑って障子を抜けていった。
台所からご飯の炊ける匂いが漂ってくる。餌を待つ池の鯉が、水面に無数の穴を開けている。
ただ座っているのみなら無害である。私は再び目を閉じた。その途端に、布団が堪えようもないほど冷たくなった。
エイとばかりに起き上がる。女は跡形も無い。
つまらない。と思うまもなく背後から花の香りが漂ってきた。
振り向くと、女は枕の上に三つ指をついていた。
「もう、十分でございます」
一陣の風が、身体を吹き抜けていった心持がした。
「それでは、留守を頼んだよ」
男は寝惚けたようにそう言うと、スーと滑って障子を抜けていった。
台所からご飯の炊ける匂いが漂ってくる。餌を待つ池の鯉が、水面に無数の穴を開けている。
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公開:18/08/01 15:56
星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。
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