留まる力

0
52

森の中での生活は不便とみえて、今までたくさんの人が出ていった。まずは弟と妹。少し置いて兄。年老いた両親と彼女だけが残された。
やがて結婚した。家は賑わいを取り戻したが、それもいっときだった。出稼ぎを理由に夫が出奔。続いて娘と息子。年老いた両親も死に、彼女だけが残された。
年数を経て、息子が嫁と孫を連れてきた。賑わいは前回よりも短かった。嫁に説得されて出ていく日、息子はそっと言った。こんなところに住んでいないで一緒に行こう。笑って退けると、息子は理解できない様子だった。その背中に彼女は呟いた。
誰かが残らなきゃ。留まる力が必要なんだよ。だってほら、出ていった人は夜になると戻る。長生きした両親。事故で死んだ男たち。産褥で儚くなった女たち。誰も迎える人がいないなんてことはしたくないね。あんたもいずれ加わるかもしれないんだから…。
彼女は目を細めて家を眺めた。夕暮れが静かに近づいている。
ファンタジー
公開:18/07/30 18:01

コメントはありません

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容