滝を登る

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 ―なぜ、こんな危険なことをするのですか?
 あれから三年。
 やっとあの時と同じ気象条件が揃った。
 あの頃よりも二周りは太くなった腕、新素材のザイル、オレンジ色のヘッドギア。髪は切った。私が巻き毛だったことを記憶している人間は、もういない。
 轟々という音を間近に聞いた。滝つぼだ。私の全てを呑み込んだ場所だ。
 見上げると、滝口から身を投げ出すかのように、白い花が一輪揺れていた。
 あの花を手折るのだ。
 ザイルを固定する。花が私を見下ろしている。最初のホールドを慎重に見定める。ヘッドライトが一直線に花を照らす。筋肉が隆起する。全てはこの挑戦のため、この贖罪のため。
 私はあの花を掴むのだ。
 滝つぼに身を沈め、滝の落下点に入る。すさまじい水圧が肩、胸、頭を打つ。
 ―なぜって? 私にはそうするよりほかないからよ。
 私の答えは今も変わらない。
 白い花が、ゆらゆらと揺れている。
公開:18/07/28 12:46

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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