動くな！

人物と風景。描くなら断然、風景だ。
人物画は面倒だ。人は長時間じっとしていられない。動き、疲れが出る。
私の絵は緻密に緻密を重ねた写真のような絵だ。私が筆を走らせる間は絶対に動かないで欲しい。
だから私は風景画を描く。風景は動かず、疲れがない。
その日、私が選んだのはとある農家だ。この場所をモデルに絵を描き始める。
…風が強いのか草花が揺れてままならない。風よ止まれ。
すると目の前の風景がぴたりと止まったではないか。
これは僥倖。私はキャンバスに筆を走らせる。
…？
何かおかしい。揺れている？ぐらついている？
目を凝らして見ると絵の中の草花が揺れていた。
今度はこっちが動くか！
やめろ！今動かれたら絵の具がにじむ！
頼むから動かないでくれ！

「という経緯があり、この北オーストリアの農家は描かれたと聞きます。
今でもこの絵は動くため、写真に収めると草花の部分はどうしてもぼやけてしまいます」